日常会話で「できなそう」と「できなさそう」という二つの言葉がよく使われます。ところが、この場合にどちらを使えばよいのかという疑問が生じます。
「できない」に「そうだ」が付くと、どちらが正しい言い方になるのでしょうか?本記事では、それぞれの言葉の使い方を、具体例とともに解説していきます。
「できなそう」と「できなさそう」はどっちが正しい?
結論から言いますと、「できなさそう」ではなく「できなそう」が正しい表現です。
まず、この二つの違いを知るには、「できない」の「ない」という言葉について、文法的な理解をしておく必要があります。
日本語の「ない」には、「形容詞」として使われる場合と「助動詞」として使われる場合があります。この違いにより、「そう」をつけた際の形が変わるのです。
先に、形容詞の「ない」に「そう」をつける場合を考えてみます。このとき、語のつながりを滑らかにするために「さ」が挿入され、「なさそう」という形になります。たとえば、「動きがない」の「ない」は形容詞ですので、「動きがなさそう」となります。
一方、助動詞の「ない」は動詞に接続し、否定の意味を補助する役割を持っています。この場合、「そう」をつけても「さ」は入りません。そのため、「動かない」の「ない」は助動詞ですので、「動かなそう」となります。
では、「できない」の場合はどうでしょうか。「できない」の「ない」は動詞「できる」に接続して否定を表す助動詞です。この「ない」は、形容詞の「ない」ではありません。
したがって、「できなそう」が正しい形となります。このように、動詞に否定の「ない」が付く場合は、「できなそう」が一般的で「さ」は入りません。
また、このルールは「そう」だけでなく「すぎ」にも適用されます。「できない」に「すぎ」をつける場合、「できなすぎ」が正しい形で、「できなさすぎ」は誤りとなります。
例外が適用される場合の使い方は?
「~そう」について、もう少し詳しく解説していきます。
例えば、「~そう」と言った場合、「食べる→食べそうだ」「残念だ→残念そうだ」などのように、「そう」には様々な言葉の語尾に付いて、状態を推量するような意味があります。
中でも形容詞の場合は、「おいしい」+「そう」⇒「おいしそう」のように、「い」が落ちて「そう」が付くのが普通です。
しかし、形容詞の場合は二つだけ例外があります。それは、「良い(よい)」と「無い(ない)」です。
この二つの場合は、語感が短いため、他の形容詞と同様に、「い」を取って「そう」を付けると、「よそう」「なそう」という誤った形になってしまいます。
そのため、この二つに限っては「よさそう」「なさそう」という言い方が一般的となります。
ただ、同じように「ない」が付く形容詞でも、「少ない」などのように「接尾語の”ない”」が付いた場合は、「さ」が入らずに、「少なそう」となります。
一方で、同じ形容詞でも「情けない」などは、本来、「情け」+「ない」という複合語なので、この場合は「情けなさそうだ」のように、「さ」が入る形になります。
「~そうだ」と「~さそうだ」の使い分け
では、これらの説明を踏まえた上で次の問題を考えてみます。
- ①「時間がない」
- ②「危ない」
- ③「仕方ない」
- ④「知らない」
この場合、後ろに「そうだ」を付けるとすると、どのような言い方になるでしょうか?
まず、①の「時間がない」の「ない」は形容詞の「ない」なので、「時間がなさそうだ」が正しい表現となります。これと同様の例としては、「席がない」「道がない」「食べ物がない」などが挙げられます。
次に②の「危ない」ですが、「危ない」は形容詞ですから「い」が落ちて「そう」が付くのが普通です。そのため、「さ」は入らずに「危なそうだ」が正しい表現となります。「さ」が入らない同様の例としては、「汚い」「切ない」「はかない」などが挙げられます。
③の「仕方ない」も形容詞ですが、これは「仕方」+「ない」という複合語なので、「さ」が入り、「仕方なさそうだ」となります。同様の例としては、「何気ない」「味気ない」などが挙げられます。
④の「知らない」は、「知る(動詞)」に否定の助動詞「ない」が付いた形なので、「さ」は付けずに「知らなそうだ」となります。同様の例としては、「行かない→行かなそうだ」「分からない→分からなそうだ」などが挙げられます。
まとめ
「できなそう」と「できなさそう」は、どちらも使われているようなイメージがありますが、正しくは「できなそう」です。
「できない」の「ない」は、動詞「できる」に否定の助動詞の「ない」が付いたものです。この「ない」は形容詞の「ない」ではないため、動詞に否定の「ない」が付く場合は「できなそうだ」となり、「さ」は入りません。
正しい文法知識を理解した上で、適切な場面でこの表現を使うようにしましょう。