「捲し上げる」と「たくしあげる」は、どちらも布などを上に持ち上げる場面で使われる言葉です。しかし、この二つには微妙なニュアンスの違いがあります。
どちらも似ているため、使い方を誤ると不自然に感じられることもあります。本記事ではそれぞれの意味を、具体例を使いながらわかりやすく解説していきます。
「捲し上げる」の意味
「捲し上げる(まくしあげる)」とは、布や袖などを勢いよく上の方へ持ち上げる動作を指します。
広辞苑では「上の方へ引きあげる。まくりあげる。」と定義されており、「まくる」という動作の延長にある言葉です。
この言葉には「勢い」「力強さ」というニュアンスが含まれます。たとえば、仕事を始める前に袖を勢いよく上げるような場面で使われます。「言葉をまくし立てる」という表現もここから派生したものです。
また、「捲し上げる」は少し荒っぽい、エネルギッシュな印象を与えるのも特徴です。静かな動作よりも、感情や力がこもった動きを表したいときに使うと自然です。
「捲し上げる」の例文
- 彼は、作業を始める前に袖を捲し上げて気合を入れた。
 - 店員は、長靴の上までズボンを捲し上げて水仕事に取りかかった。
 - 彼女は、ぬれた裾を捲し上げて階段を上った。
 - 漁師は、波しぶきを避けるためズボンを捲し上げた。
 - 子どもは、泥だらけの裾を捲し上げて歩いた。
 
「たくしあげる」の意味
「たくしあげる」とは、服の袖や裾などを手で整えながら上に持ち上げる動作を指します。
広辞苑では「袖や裾などを手でまくり上げる」と定義され、日常的で柔らかい印象の言葉です。
「捲し上げる」と異なり、勢いというよりも身なりを整える、準備をするといった丁寧な動作を表します。たとえば、水仕事や料理の前に袖を上げる場面では、「たくしあげる」を使う方が自然です。
また、「たくしあげる」はあくまで衣類に関する動作を指す言葉です。そのため、「井戸水をバケツでたくしあげる」といった使い方は誤用で、この場合は「くみ上げる」や「引き上げる」を使うのが正しい表現です。
「たくしあげる」の例文
- 母は、炊事の前に袖をたくしあげた。
 - 彼は、裾をたくしあげて泥を払った。
 - 子どもは、川で遊ぶためスカートをたくしあげた。
 - 看護師は、作業前に制服の袖をたくしあげた。
 - 学生は、実験の準備をしながら白衣の袖をたくしあげた。
 
「捲し上げる」と「たくしあげる」の違い

「捲し上げる」と「たくしあげる」の違いは、次のように整理することができます。
| 比較項目 | 「捲し上げる(まくしあげる)」 | 「たくしあげる」 | 
|---|---|---|
| 意味 | 布などを勢いよく上にまく | 袖や裾を整えて上に持ち上げる | 
| ニュアンス | 力強い・勢いがある・荒っぽい | 丁寧・落ち着いた・日常的 | 
| 使用例 | 袖を捲し上げて仕事にかかる | 水仕事の前に袖をたくしあげる | 
| 使用場面 | 強調表現として使う | 実際の動作でよく使う | 
| 漢字表記 | 「捲し上げる」または「まくし上げる」 | 通常はひらがなで表記する | 
「捲し上げる」は勢いよく、力強く布を上げる様子を表すのに対し、「たくしあげる」は落ち着いて丁寧に上げる場面に適しています。どちらも衣服に使えますが、使う場面の雰囲気によって自然さが変わります。
また、語感の違いも重要です。「捲し上げる」は「まくる」から派生しており、勢いや感情の高まりを伴うことが多い言葉です。
一方で「たくしあげる」は日常的で、女性的・やわらかい印象を与える表現といえます。そのため、「袖を捲し上げて勝負に挑む」といった力強い文脈では前者が自然ですが、「袖をたくしあげて洗い物をする」といった場面では後者が適切です。
つまり、「捲し上げる」は勢い・力強さ、「たくしあげる」は丁寧さ・日常性がポイントです。文脈に応じて使い分けると、表現のニュアンスが豊かになります。
「捲し上げる」と「たくしあげる」の使い分け
それでは、実際に両者をどのように使い分ければよいのでしょうか?以下に、場面ごとの使い分け方を簡単に示します。
① 力を込めて作業に取りかかる場合 ⇒ 「捲し上げる」
力強く何かを始めるときは、「捲し上げる」を使います。「袖を捲し上げて掃除に取りかかる」など、行動や感情に勢いがある場面に向いています。「やるぞ」という気持ちを表したいときに適した表現です。
② 丁寧に服装を整える場合 ⇒ 「たくしあげる」
落ち着いた動作で袖や裾を上げるときは、「たくしあげる」を使います。水仕事や料理、実験など、実用的で日常的な動作を表すのに向いています。やさしく・自然な印象を与えたいときに最も合う表現です。
③ 比喩的に勢いを表す場合 ⇒ 「まくし立てる(捲し立てる)」
両者は、あくまで衣服などを持ち上げる動作を表す言葉であり、比喩的な勢いを表すときには使いません。そのような場合は「まくし立てる(捲し立てる)」を使います。たとえば、「彼は怒りながら言葉をまくし立てた」のように、次々と勢いよく話す様子を表すときに使います。
まとめ
この記事では、「捲し上げる」と「たくしあげる」の違いを解説しました。「捲し上げる」は勢い・力強さを、「たくしあげる」は落ち着き・丁寧さを表す点で異なります。
言葉の意味自体は似ていますが、使われる場面に差があるため、状況に応じた使い分けが大切です。動作に勢いを出したいときは「捲し上げる」、日常的で自然な動作を表したいときは「たくしあげる」を選ぶとよいでしょう。





