文章を書くとき、「式を行う」「会議を開く」など、似たような表現に迷った経験はありませんか?どちらもよく使う言葉ですが、置き換えがしっくりこない場面もあります。
日本語として自然な文を書くためにも、正しい使い分けを知っておきたいところです。本記事では、「行う」と「開く」の違いをわかりやすく解説していきます。
「行う」の意味と使い方
「行う(おこなう)」は国語辞典で「何らかの事柄や動作をする。多くは一定の方式に従ってする」という意味が示されています。
ここから分かるのは、「行う」には手順やルールに沿って実施される事柄との相性がよいという点です。実際の用例としては、「熱心な会議が行われる」「卒業式が行われる」など、形式が定まった活動によく使われます。
特に顕著なのは、「式」や「式典」に関連する語と結びつきやすいことです。たとえば、結婚式や追悼式、表彰式、調印式など、厳格な流れや作法が求められる場面では「行う」が自然です。
また、スポーツの試合、裁判、儀式、宗教的な祭事なども「行う」が優勢です。これらはいずれも「決まった段取りのある場」であり、「行う」の本質に合致した使われ方といえます。
つまり、「行う」は形式性・規範性のある実施と相性がよい語と言えるでしょう。
「開く」の意味と使い方
一方、「開く(ひらく)」は辞典で「会を催す・開催する」という意味が示されます。その特徴は、人が集まる催し物や会合との相性がよい点で、「同窓会を開く」「個展を開く」などの用法が一般的です。
「開く」には「場を設け、人が集まれるようにする」というニュアンスがあり、形式的な手順よりも催し・集まりそのものを立ち上げる行為に焦点があります。そのため、総会、宴会、議会、国会、会議、公聴会、舞踏会、博覧会など、「○○会」と結びつく語が多い傾向があります。
また、「講座」「教室」「イベント」など、人が参加しやすいスタイルの活動にも「開く」がよく使われます。さらに、国際的な催しにも使われ、「オリンピックが開かれる」「サミットが開かれる」など、大規模な集まりにも幅広く対応します。
このように、「開く」は「〇〇会」「〇〇イベント」などのように、人が集う場の開催に対して相性が良い言葉です。
両方使える場合と片方しか使えない場合
「行う」と「開く」はどちらも「実施する」という大枠では同じです。しかし、ニュアンスの違いから、両方使える場面とどちらかに限られる場面があります。
両方使われる例
「イベント」「コンサート」などは、内容にもよりますが「行われる/開かれる」のどちらも比較的よく用いられます。
なぜなら、形式よりも趣旨や会の設け方により、どちらの語を使うか判断が分かれるためです。
片方しか自然でない例
- 神事が行われる(◎)/開かれる(△)
神事は宗教的な儀式であり、決まった手順が重要なため「行う」が自然です。
- 市が開かれる(◎)/行われる(△)
市(いち)は「場を設ける」性質があり、催しとしての意味合いが強いため「開く」が自然です。
- パーティーが開かれる(◎)/行われる(△)
参加者が集まる社交的イベントであり「開く」が一般的。
- 講座・教室が開かれる(◎)/行われる(△)
講座は「主催者が場を設ける」という性質が強いため「開く」が優勢です。
このように、形式性が高ければ「行う」、集まりや催しの性質が強ければ「開く」が適していると考えると理解しやすくなります。
「行う」と「開く」の使い分け
最後に、「行う」と「開く」を迷わず使い分けるためのポイントを整理します。
①形式・段取りが重要かどうかで判断
儀式・式典・会見・試合・裁判など、決まった手順が重視される場面は「行う」が自然です。特に「○○式」が付く語はほぼ確実に「行う」で問題ありません。
②人が集まる「場を設ける」イメージがあるか
総会、議会、宴会、講座、会議、展示会、祭り、イベントなど、主催者が場を整えて人々が集まる場面は「開く」が適します。「○○会」に当てはまるものは、「開く」が基本と覚えておくと便利です。
③結果より「開催そのもの」に焦点があるか
「式を行う」は儀式の中身・手順に焦点がありますが、「会議を開く」は開催の決定に焦点があります。どちらに重点が置かれているかによって自然な語が変わります。
④迷ったら例文を置き換えてみる
不自然さを感じるかどうかを確かめるのも一つの方法です。
- 「卒業式が開かれる」→不自然
- 「総会が行われる」→堅くてやや不自然
こうした違和感が判断のヒントになります。
まとめ
「行う」は形式に沿って進める事柄との相性がよく、「式」「式典」「祭り」「会見」など、定型性のあるものに向いています。一方、「開く」は人が集う行為や催し物を開催するニュアンスが強く、会議や講座、イベント、総会など場を設ける行為に適しています。
完全に線引きできるわけではありませんが、それぞれの語が持つ特徴を押さえることで、文脈に合った自然な表現が選べるようになります。文章の質を高めたい方や、ビジネス文書で正確な日本語を使いたい方は、ぜひ今回のポイントを意識して使い分けてみてください。
