日常会話や文章の中で、「えり好み」や「より好み」という言葉を耳にしたたことがある人も多いはずです。読み方が違うこの二つの言葉ですが、どのような関係があるのでしょうか?
この記事では、「えり好み」と「より好み」の意味や違い、そして歴史的な背景を詳しく解説していきます。どちらの表現を選ぶべきか迷った際の参考になれば幸いです。
「えり好み」と「より好み」の意味
「えり好み」と「より好み」は、辞書だと同じような説明がされています。
「選り好み(えりごのみ)」
⇒自分の好きなものだけを選び取ること。よりごのみ。えりぎらい。
「選り好み(よりごのみ)」
⇒好きなものばかりを選びとること。えりごのみ。
引用元:デジタル大辞泉
そのため、一般に使う際にはどちらを使っても問題ありません。どちらも正しい読み方なので、両方とも使うことができます。
使い方としては主に、「えり好みが激しい人」「より好みしないで誰とでもつきあう」などのように用います。
どちらも「自分の好きなものだけを選び取ること」という意味で使うことが可能です。
「えり好み」と「より好み」の違い
「えり好み」と「より好み」の違いは、どちらが先に使われていたかという歴史にあります。
実は「選る」は、元々「える」と読んでいました。その「える」が変化していき、「よる」とも言うようになったようです。
「える」の語源はかなり古く、奈良時代の『日本書紀』や平安時代の『枕草子』の中にはすでに「える」が使われていました。
また、戦国時代には、『多聞院日記』の中に「よる」の使用が確認されています。そして、室町時代にはすでに「える/よる」の二種類の読み方が混在していたようです。
このような経緯もあり、現在では二つの読み方が存在しているのです。そのため、両者の違いは、「えり」の方が古くからある言葉で、「よる」は「える」が変化してできた新しい言葉ということになります。
「えり好み」と「より好み」の使い分け
「えり好み」と「より好み」は、どちらも使うことができます。ただ、その使い分けには一定の傾向があるようです。
過去にNHK放送文化研究所は、次のような報告を行いました。
”書き言葉としては「えり好み」、話し言葉としては「より好み」が一般に使われている。”
ここから、日常会話などの話し言葉においては「より」の方がよく使われる傾向にあることが分かります。
また、同じくNHK放送文化研究所が過去に行った全国調査では、次のような結果が出ています。
- 「えり好み」を使う・・・46%
- 「より好み」を使う・・・51%
数字を比べると両者が拮抗していますが、この調査では、若い人または女性は「より好み」を選ぶ方が多いという結果も出ました。
これは、若い人や女性は、話し言葉や変化した言い方を先導していく傾向があるからだと考えられます。そのため、今後は「より~」の方を使う人が増えていくと予想されます。
他の語を調べてみても、すでに「より~」をよく使う言葉として「よりによって」や「よりどり(みどり)」などがあります。これらの言葉を、「えりによって」「えりどり(みどり)」などと言うことはほとんど耳にしません。
以上の事から、「えり好み」と「より好み」のどちらも使える言葉ですが、この調査を見る限り「より好み」の方が一般的な言葉だと言えそうです。
「免れる」は「まぬかれる」「まぬがれる」?
似たような例で、「免れる」を「まぬかれる」と「まぬがれる」のどちらで読めばいいのかという問題があります。
この二つも同様に、濁らない方の「まぬかれる」が本来の言い方で、時代とともに「まぬがれる」に変わっていったとされています。
同じくNHK放送文化研究所が過去に行った調査では、以下のような結果が出ています。
- 「まぬかれた」を使う・・・14%
- 「まぬがれた」を使う・・・81%
放送業界でも、以前は「まぬかれる」が優先でしたが、現在では両方を使い、「まぬがれる」の方を優先して使っているようです。
しかし、一部の辞書だと「“まぬかれる”とも読む。」「話し言葉だと”まぬかれる”が優勢だが、規範的に”まぬかれる”が正しいとする意識が残っている」などと記述しているものもあります。
時代によって、漢字の読み方も変わっていくことが分かるかと思います。
まとめ
「えり好み」と「より好み」は意味としては同じで、どちらも「自分の好みに合ったものを選び取ること」を指します。辞書でもほぼ同じように説明されていますが、発音の違いには歴史的な背景があります。
「えり」の方が古くから使われていた表現で、「より」は「える」が変化してできた新しい読み方です。日常会話では「より好み」がよく使われ、若い人や女性の間では「より好み」を選ぶ傾向が強いです。
このように、両者は使い方に違いがあるものの、いずれも正しい表現として広く認識されています。今後は「より~」の表現がさらに一般的になると予想されますが、現時点ではどちらの表現も状況に応じて使い分けることが可能と言えます。