
文章を書いていると、「物」「もの」「者」「モノ」のどれを使えばいいのか迷うことはありませんか。特に公用文やビジネス文書では、たった一文字の違いが文章の正確さや印象を左右します。
「好きな物」と「好きなもの」は同じ意味でしょうか。それとも違いがあるのでしょうか。本記事では、それぞれの違いや公用文での使い分けをわかりやすく解説していきます。
「物」の意味【具体物】
まず「物」とは、目で見たり手で触れたりできる具体的な物体や物質を指す語です。いわゆる実質名詞にあたり、形のある存在を示します。
たとえば、「物の価値」「物の値段」「部屋に物があふれている」「そこにある物を持ってきてください」といった場合の「物」は、実際に存在する対象を指しています。このように、「物体」と言い換えられる場合は漢字の「物」を使うのが基本です。
また、「食べ物」「贈り物」「置物」「大物」「物置」など、熟語の形で使われることも非常に多いのが特徴です。これらは慣用的に漢字で書くのが一般的で、公用文でもそのまま用いられます。
一方で注意したいのが、「輸入もの」「国産もの」「天然もの」のようなケースです。本来であれば「輸入物」と書けますが、「物」を使うと「ブツ」と誤読されるおそれがあるため、あえてひらがなにすることがあります。これは厳密な文法規則というより、可読性を高めるための表記上の工夫です。
なお、「好きな物」と書いた場合は、基本的に具体的な形のある対象に限定されます。食べ物、服、雑貨など、実在するものを指すニュアンスになります。抽象的な対象まで含めたい場合は、後述する「もの」が適しています。
「もの」の意味【形式名詞】
「もの」とは、抽象的な事柄や文法的な役割を果たす形式名詞として使われる場合に、ひらがなで書く語です。
形式名詞とは、本来の意味が薄れ、文の調子を整えたり、意味をまとめたりする働きをする語のことです。たとえば、「人生とはそういうものだ」「よく頑張ったものだ」「参加したものとみなす」といった文では、「もの」は具体物を指しているわけではありません。ここで漢字の「物」を使うと不自然になります。
公用文の基準となる「常用漢字表」および「公用文における漢字使用等について」では、形式名詞は原則としてひらがなで書くと記されています。つまり、「こと」「とき」「ところ」「ため」「わけ」などと同様に、「もの」もひらがなにするのがルールです。
また、「限定」を表す表現でもひらがなを用います。たとえば、「東京都在住の者で未成年を扶養しているものは申請してください」という文では、「もの」は人を指していますが、限定を加える説明的な用法のため、ひらがなになります。
このように、人を指していても「者」ではなく「もの」と書く場合がある点は、公用文で特に注意が必要です。さらに、「好きなもの」と書いた場合は、具体物に限らず、音楽、映画、読書、行事など抽象的な対象も含みます。
「者」の意味【人・法人】
「者」とは、人格を有する存在を指す語です。基本的には「人」を表しますが、公用文では法人や団体にも用いられます。これは、法人には「法人格」が認められているためです。
たとえば、「資格を有する者」「次の条件に該当する者」「75歳未満の者」といった表現は、公用文や法令で頻繁に使われます。これらは特定の人を客観的・中立的に示す言い方であり、条文や規則に適した硬い表現です。
日常会話で「宿題を忘れた者は手を挙げなさい」と言うと、やや堅苦しく聞こえます。通常は「人」を使う方が自然でしょう。しかし、公用文では曖昧さを避けるために「者」を用いるのが原則です。
ただし、前述のとおり、「〜であって、〜もの」という限定構文では、「者」で受けた人であっても最終的には「もの」と書きます。この使い分けは試験や小論文でも問われやすいポイントです。
「モノ」の意味【強調表現】
「モノ」とは、主に強調や概念化のための表現上の工夫として使われるカタカナ語です。
たとえば、「ヒト・モノ・カネ」という表現があります。これは経営資源を示す言葉ですが、「人・物・金」と書くよりも、カタカナにすることで視覚的なインパクトが生まれます。
また、「モノ消費」「モノの豊かさ」なども同様に、単なる物体ではなく「概念としての物」を表しています。
漢字の「物」はやや硬く、「もの」は文章の中に埋もれやすいという側面があります。そのため、あえてカタカナにすることで意味を際立たせる効果を狙うわけです。
つまり「モノ」は文法上の区別というよりも、読み手に強い印象を与えるための表現技法といえるでしょう。
公用文での使い分けは?
これらの言葉は、公用文ではどう使い分ければいいのでしょうか?
第一に、具体的な物体であれば「物」を使います。第二に、人や法人を指す場合は「者」を使います。第三に、抽象的な意味や文法的役割を果たす場合は「もの」とひらがなで書きます。そして、「モノ」は強調や概念表現であり、公用文では基本的に使用しません。
特に重要なのは、形式名詞を漢字で書かないことです。たとえば、「参加した物とみなす」「よく頑張った物だ」と書くのは誤りになります。小論文やレポートでは減点対象になりかねません。
また、「好きな物」は具体物、「好きなもの」は抽象的な対象も含むという違いも覚えておくと、文章表現の幅が広がります。単なる表記の問題に見えて、実は意味やニュアンスに大きく関わるポイントなのです。
正しい原則を理解したうえで、文脈に応じて最適な表記を選ぶことが、読みやすく信頼性の高い文章を書く第一歩になります。
まとめ
本記事の内容を表にまとめると、以下のようになります。
| 表記 | 意味 | 使う対象 | 公用文での扱い | 具体例 |
|---|---|---|---|---|
| 物 | 具体的な物体・物質 | 形のあるもの | 漢字で書く | 物の価値、食べ物 |
| もの | 抽象・形式名詞 | 概念・文法的用法 | 必ずひらがな | そういうものだ、参加したもの |
| 者 | 人・法人 | 人格を有する存在 | 漢字で書く | 資格を有する者 |
| モノ | 強調・概念化 | 表現上の工夫 | 公用文では通常使わない | ヒト・モノ・カネ |
「物」「もの」「モノ」「者」は、見た目は似ていても意味や役割が異なります。具体物なら「物」、人なら「者」、抽象的・文法的用法なら「もの」、強調表現なら「モノ」というのが基本原則です。
特に公用文では、形式名詞をひらがなにすることが重要なポイントになります。表記を正しく使い分けることで、文章の正確さと信頼性は大きく高まります。