日本語には、同じ読み方にもかかわらず、異なる使い方をする言葉が多く存在します。その一つが「下ろす」と「降ろす」です。
この二つはどちらも「おろす」と読みますが、ニュアンスや使い方に違いがあります。本記事では、それぞれの違いを詳しく説明し、「荷物をおろす」や「お金をおろす」といった表現もどちらが適切かを解説していきます。
「下ろす」の意味とは
「下ろす」とは、上にあるものを下に移動させることを意味します。具体的には、物を下へ動かしたり、上げた状態から平らな場所に置いたりする行為に使います。
主な意味と例
- 物を上から下に動かす
- 例: 手を「下ろす」、ズボンを「下ろす」、シャッターを「下ろす」。
- 新しいものを使い始める
- 例: 新しい靴を「下ろす」、初めての背広を「下ろす」。
- 貯金や物を引き出す
- 例: 銀行からお金を「下ろす」、倉庫から商品を「下ろす」。
- 切り離して落とす
- 例: 魚を三枚に「下ろす」、カーテンを「下ろす」。
- 役目や物事を終える
- 例: 舞台で幕を「下ろす」、肩の荷を「下ろす」。
これらの例からもわかるように、「下ろす」は物理的な動きだけでなく、新しいスタートや終了を表す場合にも用いられます。
「降ろす」の意味とは
一方、「降ろす」とは、高い場所や乗り物、特定の状態から下へ移動させることを意味します。特に乗り物や人、役職の変化に関係する場面で使われることが多い漢字です。
主な意味と例
- 乗り物や場所から出す
- 例: 車から荷物を「降ろす」、タクシーで乗客を「降ろす」。
- 高所から移動させる
- 例: 探査機を月に「降ろす」、ロープを「降ろす」。
- 役職や状態を変える
- 例: 課長の地位から「降ろす」、主役の座を「降ろされる」。
- 降りてくる動作を助ける
- 例: パラシュートで地面に「降ろす」、神様を地上に「降ろす」。
「降ろす」には、人や物を高い位置から低い場所へ移す意味が強調される傾向があります。
「下ろす」と「降ろす」の違い・使い分け
「下ろす」と「降ろす」は似ていますが、それぞれ使われる場面に違いがあります。簡単にまとめると以下のようになります。
使い分けのポイント
- 「下ろす」
上から下へ動かす動作が中心で、物理的な移動以外にも、新しいものの使用や役割の終了などにも使われる。 - 「降ろす」
高い場所や乗り物から下へ動かす場合に使われ、人や物の移動、状態の変化を表す際に使われる。
例文
- 新しい服を下ろす。
- 舞台で幕を下ろす。
- 倉庫から商品を下ろす。
- 車から荷物を降ろす。
- 社長の地位を降ろす。
- タクシーで友人を自宅前に降ろす。
これらの例からもわかるように、使う場面や動作の内容によって使い分けるのが特徴です。
「荷物をおろす」は「下ろす」と「降ろす」か?
結論として、「荷物をおろす」には「下ろす」と「降ろす」の両方が正解です。ただし、具体的な状況に応じて使い分ける必要があります。
「下ろす」が適する場合
棚の上に置かれた荷物を床に置く場合や、肩に担いでいた荷物を下に置くような場合は「下ろす」を使います。
例:
- 倉庫で重い荷物を下ろす。
- 肩に背負ったリュックを下ろす。
- 本棚の上にある本を下ろす。
「降ろす」が適する場合
一方、車やトラックの荷台から荷物を取り出す場合や、飛行機から物資をおろす場面では「降ろす」を使います。
例:
- 車から荷物を降ろす。
- トラックから商品を降ろす。
- 飛行機から荷物を降ろす。
このように、「どこから荷物をおろすのか」を考えることで、適切な漢字を選ぶ必要があります。
「お金をおろす」は下ろす?降ろす?
「お金をおろす」という表現は、正しくは「下ろす」を使います。
「下ろす」は、上から下へ動かすことや取り出すことを表します。たとえば、「銀行からお金を下ろす」「棚から荷物を下ろす」などのように、ある場所から取り出すニュアンスがあります。
一方、「降ろす」は、乗り物などから人や荷物をおろす場合に使います。「車から友人を降ろす。」などがその例です。
したがって、「銀行でお金をおろす」と言いたい場合は「下ろす」が正解です。この表現では、お金を自分の預金口座から取り出す行為を意味しています。
「抱っこをおろす」は下ろす?降ろす?
「抱っこをおろす」という表現は、正しくは「下ろす」を使います。
「抱っこをおろす」と言う場合、抱えている子供を手や腕から下へ移動させる行為を指します。このように、人を高い位置から下ろす場合は「下ろす」を使います。「降ろす」は使用しません。
「降ろす」も必ずしも間違いとは言えませんが、文脈によっては不自然に感じられることが多いです。
「降ろす」には、乗り物や高所などから人や物を移動させる意味が強いため、抱っこしている状態から地面に下ろす行為を「降ろす」と表現するのは違和感があります。
もしもどちらを使うか迷った場合は、「その行為が乗り物と関係あるかどうか」を基準にすると、正しい使い分けができます。乗り物と関係するような場合は、基本的に「降ろす」の方が適しています。
「卸す」とは?「下ろす」や「降ろす」との違い
「卸す(おろす)」とは、主に商取引や物品の流通に関する場面で使われる言葉です。「商品を卸す」と言う場合、メーカーや卸売業者が商品を小売業者に販売することを指します。
このように「卸す」は、商品の取引を意味する特殊な言葉です。
一方、「下ろす」や「降ろす」は、日常的な動作や位置の移動を表します。「下ろす」は物を上から下に移動させる場合(例:荷物を下ろす)、「降ろす」は乗り物や高所から人や物を移動させる場合(例:乗客を降ろす)に使います。
「卸す」は流通や加工に関係し、「下ろす」や「降ろす」は物理的な動きに関連するため、文脈によって明確に区別することができます。商売などの専門的な場面では、「卸す」を使うようにします。
まとめ
本記事では、「おろす」の違いについて解説しました。
「下ろす」と「降ろす」はどちらも「おろす」と読みますが、その使い方に違いがあります。「下ろす」は上から下へ動かすことや、役目の終了、新しいものの使用に関連し、「降ろす」は高所や乗り物、役職からの移動に焦点を当てます。
「荷物をおろす」という表現も、荷物がどのような状況にあるかによって使い分ける必要があります。日本語の奥深さを感じる場面でもありますが、具体例を通して使い分けができるようになりましょう。