
「たちあげる」という言葉は、漢字だと「起ち上げる」と「立ち上げる」の二種類があります。ただ、この場合にどちらの漢字を使えばよいかという問題があります。
特に、公用文ではどちらが適切か悩む方も多いはずです。本記事では、その違いと使い分けを具体例とともにわかりやすく解説します。
「起ち上げる」の意味
「起ち上げる」とは、強い意志や理念をもって物事を始めるという意味を持つ表現です。
この言葉には、単に行動を開始するというだけでなく、内面からの決意や志によって動き出す、という精神的・象徴的な意味合いが含まれています。
「起」という字には「起きる」「起こす」といった、何かが動き出すイメージがあり、そこに「ち上げる」という送り仮名を加えることで、「自ら立ち上がって行動を始める」という感情的な高まりを感じさせます。
たとえば、社会運動の発足や理想に基づいた活動の開始、歴史的な大義を持った事業の開始などが、この表現にふさわしい場面です。
そのため、「起ち上げる」は、文芸作品や演説、歴史的な記述などで用いられやすく、文章に重みや深みを与えたいときに適しています。
「起ち上げる」の例文
- 志士たちは、新しい時代を切り開くために国家を起ち上げた。
- 被災地の復興を願い、市民が支援団体を起ち上げた。
- 若者たちは、社会の変革を目指して運動を起ち上げた。
- 彼女は、差別のない社会を実現するためにプロジェクトを起ち上げた。
- 民間の力で教育格差をなくす運動を起ち上げることに決めた。
「立ち上げる」の意味
「立ち上げる」とは、事業・システム・プロジェクトなどを始動させることを意味する表現です。
ビジネス・IT・日常会話などさまざまな場面で使われる語であり、誰にでも伝わりやすいのが特徴です。
「立」は「立つ」「起立する」など、物理的に動作を始めるイメージを持ちます。そのため、「立ち上げる」には、組織やシステムなど、目に見える仕組みを実際に稼働させるという意味合いが強く込められています。
たとえば、新会社の設立、会議の開催、PCやアプリの起動など、具体的な開始行動に使われます。
また、「立ち上げる」は常用漢字表にある語であり、公用文・新聞・報告書などでも安心して使える表現です。
「立ち上げる」の例文
- 地域活性化のため、新しい事業を立ち上げた。
- パソコンを立ち上げて、資料作成を始めた。
- 起業家たちは新規ビジネスを立ち上げる準備を進めている。
- 社内の改善プロジェクトを立ち上げることが決定した。
- 新しいイベントの運営チームを立ち上げた。
「起ち上げる」と「立ち上げる」の違い
「起ち上げる」と「立ち上げる」の違いは、次のように整理することができます。
項目 | 起ち上げる | 立ち上げる |
---|---|---|
主な意味 | 志や理念に基づき象徴的に始める | 実務的・現実的に始める |
用例の傾向 | 歴史・文学・演説・詩的表現 | ビジネス・IT・日常会話 |
公用文での使用 | 不可(常用漢字表にない読みのため) | 可(常用漢字表にあるため) |
表記の印象 | 重厚・比喩的・感情を込めた印象 | 明確・汎用的・実用的な印象 |
使用頻度 | 低い(限定的な場面で使用) | 高い(一般的に広く使用) |
「立ち上げる」は、最も一般的な表記で、幅広い分野で使われます。たとえば、新しいプロジェクトや会社、イベント、コンピューターの起動など、多くの場面に対応できる言葉です。
また、「立」は常用漢字に含まれており、「立ち上げる」という語全体が公用文やビジネス文書でも問題なく使える表現とされています。新聞、行政文書、マニュアルなど公式な文脈では、常用漢字表に準拠することが求められるため、「立ち上げる」を使うのが適切です。
一方、「起ち上げる」はあまり見慣れない表記ですが、「起」は「起きる」「奮い立つ」「反乱を起こす」など、より内面的・感情的な動きや決意を伴う文脈で使われやすいです。
そのため、「起ち上げる」は文学的、感情的な重みを持たせたいときに使われることが多く、たとえば「志士たちが新政府を起ち上げる」といった歴史的・象徴的な文脈に向いています。
ただし、「起ち上げる」に含まれる「起つ(たつ)」という読み方は、常用漢字表には記載されていないため、公用文やビジネス文書などの場では使用が避けられるのが一般的です。読みの正確性や可読性が重視される文書においては、「立ち上げる」を選ぶ方が無難です。
このように、「立ち上げる」が日常的・汎用的かつ公式文書にも適した表現なのに対し、「起ち上げる」はより強調的・文学的な表現という違いがあります。書き手の意図や文体に応じて、使い分けるのが望ましいと言えるでしょう。
「起ち上げる」と「立ち上げる」の使い分け
どちらを使えばよいか迷ったときは、以下のように場面別で整理すると判断しやすくなります。
① 歴史的・理念的な活動を始める場合 ⇒「起ち上げる」
社会運動、理想に基づく活動、精神的な訴えを伴う事業などでは、「起ち上げる」を使います。文章に重みや象徴性を持たせたいときに適しています。
② 公的文書・ビジネス文書・実務行為の場合 ⇒「立ち上げる」
会社の設立、システムの起動、チームの設置など、現実の行動を明確に伝える場面では「立ち上げる」が適切です。特に、公用文や公式資料では「立ち上げる」の使用が推奨されます。
③ 文学・演説など印象的な語りをしたいとき ⇒「起ち上げる」
比喩的な表現や物語的な文脈では、「起ち上げる」を使うことで読者に強い印象を与えられます。語感や感情を重視したい場合に有効です。
まとめ
今回は、「起ち上げる」と「立ち上げる」の違いを解説しました。
「起ち上げる」は、精神的・象徴的な意味を持ち、文学的・理念的な文脈に適していますが、公用文などでは避けるのが無難です。
一方の「立ち上げる」は、常用漢字表に準拠しており、公的文書や日常表現、ビジネスの場面でも広く使用されています。
場面に応じて適切に使い分けることで、より正確で効果的な文章表現が可能になります。
※この記事を読んだ後は、以下の関連記事もおすすめです。
■「差し替え」と「差し換え」の違いは?どっちの表記が正しい?