
「ひろがる」という言葉には、「広がる」と「拡がる」の二種類の漢字表記があります。しかし、この二つの違いを正確に説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか?
どちらも似たような意味を持ちながら、使い分けには明確なルールが存在します。この記事では、それぞれの意味の違いや公用文でのルールについてわかりやすく解説します。
「広がる」の意味
「広がる」はもっとも一般的な表記で、幅や面積が大きくなることや、物事が一帯に及んでいくことを表します。
主に物理的な空間が大きくなる様子や、視界・感覚が広がっていく場面で使われます。また、感情や影響力など、目に見えないものが全体に及んでいくような抽象的な広がりにも使われるのが特徴です。
他には、「自然と広がっていく」「静かに広がる」などのように、強い力を伴わず、緩やかに広がる様子を表す場合にもよく使われます。
主な意味
- 面積・範囲が大きくなること
- 物理的・視覚的に広くなること
- 抽象的な概念が広く行き渡ること
「広がる」の例文
- 目の前に広がる景色は大変美しい。
- 海外に留学し、視野が広がる経験をした。
- 一面に広がる夕焼けが、空を赤く染めていた。
- 大規模な改築をすることで家が広がる。
- 森の中には、静けさが広がっていた。
このように、「広がる」は視覚的・空間的な広がりや、抽象的な意味として幅広く使われます。
「拡がる」の意味
一方、「拡がる」は「広がる」と同じ読み方をしますが、比較的新しく使われるようになった表記です。
意味としては「拡大する」に近いですが、「意図的に大きくする」「範囲を積極的に広げる」というニュアンスを持つ言葉です。
自然に広がっていくというよりは、何らかの力や影響によって「広げていく」「広げられていく」といった動きが感じられる表現です。
また、「拡張」「拡大」などの熟語に含まれる「拡」という字が使われていることからも分かるように、より機械的・構造的・戦略的な広がりを示すことが多いのも特徴です。
主な意味
- ある範囲を意図的または機械的に広げること
- 拡大・拡張に近い意味を持つ
- 広がることによって影響や効果が強まること
「拡がる」の例文
- 新しい事業が海外に拡がる。
- グローバル戦略により市場が拡がる。
- 有名人の悪い噂がネット上で拡がる。
- 新種のウイルスが地域全体に拡がる。
- 環境破壊によって汚染が拡がった。
「拡がる」は、特に情報や影響、病気などが広がるような場合に使われやすい傾向があります。
「広がる」と「拡がる」の違い
「広がる」と「拡がる」の違いは、次のように整理することができます。
一方、「拡がる」は「拡大」や「拡張」などの言葉と関係があり、意図的な広がりや、範囲の拡張といった意味合いが強くなります。
たとえば、「感染が拡がる」「活動範囲が拡がる」など、変化や動きが強調される場面で用いられる傾向があります。ただし、「拡がる」は常用漢字外の表記であるため、日常的な文章ではあまり使われません。
まとめると、「広がる」は自然で柔らかい印象、「拡がる」はやや堅く、論理的・意図的な印象を持ちます。「自然に広がるもの」には「広がる」を、「人為的・急速に広がるもの」には「拡がる」を使うと、より適切なニュアンスになります。
公用文ではどちらを使うべき?
日本の公的機関が使用する「公用文」では、漢字表記には一定のルールがあります。
例えば、「常用漢字に含まれない漢字や、使い方が限定される漢字」はなるべく使わないようにする方針があります。
「拡がる」は常用漢字表に載っていない?
「拡がる」の「拡」は常用漢字ですが、「“拡がる”」という使い方は常用の用法とは見なされていません。
常用漢字表では「拡大」「拡張」などの熟語での使用は認められているものの、「拡がる」という動詞的な表記は想定されていないのです。
そのため、公用文では「広がる」を使うのが原則とされています。
メディアや出版物での使われ方
新聞・雑誌・テレビのテロップなどでも、「広がる」の使用が一般的です。NHKの放送用語集や、新聞社の記者ハンドブックでも、「広がる」が推奨されています。
ただし、文学作品やWebコンテンツでは、意味の違いを強調するために「拡がる」をあえて使うこともあります。
たとえば、感染拡大のように危機感を持たせたい場面では「拡がる」と表記することで、読者に強い印象を与えることができます。
まとめ
今回は、「広がる」と「拡がる」の違いについて解説しました。
「広がる」は自然な広がりを表す日常的な表記で、広く一般に使用されます。一方、「拡がる」は意図的・戦略的な広がりを表す表記で、やや堅い印象があります。
また、公的文書では「拡がる」ではなく「広がる」を使うのが原則です。今後は文脈に注意しながら適切な漢字を選ぶようにしましょう。
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