「事例」と「事案」は、どちらもビジネスやニュースなどでよく使われる言葉です。しかし、両者の違いを明確に説明できる人は意外と少ないかもしれません。
一見似たような場面で使われますが、実際にはそれぞれが指す対象やニュアンスは異なります。本記事では、それぞれの意味を具体例を交えながらわかりやすく解説していきます。
「事例」の意味
「事例（じれい）」とは、過去に実際に起こった出来事や実例を指す言葉です。特定のケースを取り上げて説明したり、他の判断や対策の参考にしたりする際に用いられます。
多くの辞書では、「前例になる事実」「一つ一つの実例」と説明されています。つまり、過去に起こった事実や成功・失敗のケースを振り返り、学びや改善に役立てる文脈で使われます。
たとえば、企業の報告書で「成功事例を共有する」「クレーム対応の事例を分析する」といった使い方が一般的です。どちらも、すでに起こった出来事を振り返り、今後の判断材料にする意味があります。
「事例」は、問題の有無にかかわらず使える点も特徴です。成功や良い取り組みを示す「ポジティブな事例」もあれば、失敗や課題を示す「ネガティブな事例」もあります。そのため、研究・教育・行政など、幅広い分野で使用されています。
「事例」の例文
- 営業部は、他社の成功事例を分析して新たな提案書を作成した。
- 事故防止のため、過去の事例を参考に安全マニュアルを見直した。
- 本セミナーでは、地域活性化の事例をいくつか紹介します。
- 新製品の開発にあたり、海外の導入事例を調査した。
- 医療現場の対応事例を共有し、今後の研修に役立てた。
「事案」の意味
「事案（じあん）」とは、現在または過去に「問題となっている事柄」を指します。ニュースや行政文書などでよく使われ、「不正事案」「通報事案」「人権侵害事案」など、やや重たい印象を伴う表現です。
辞書でも「問題になっている事柄」と定義されており、何らかの対応・調査・処理が必要な出来事を表すのが特徴です。
たとえば、「情報漏えいの事案が発生した」「不正事案について調査中」といった表現では、組織が現在または過去に対応すべき問題を指しています。
なお、「事案」は基本的に“問題”の含意をもつため、成功や良い結果を指すことはほとんどありません。
また、警察や行政機関では、刑事事件に発展する前段階の「問題発生」を示すためにも使われます。「事案が発生」「事案を受けて調査」などの表現はその典型です。
「事案」の例文
- 社内で、パワーハラスメントの事案が報告された。
- データ改ざんの事案が発覚し、関係部署が調査を行っている。
- コンプライアンス上、重大な事案として取り扱う必要がある。
- 設備の不具合により、一時的に業務が停止する事案が発生した。
- 不審者が接触を試みる事案が、特定の地域で相次いでいる。
「事例」と「事案」の違い
両者の違いは、次のように整理することができます。
| 項目 | 事例 | 事案 |
|---|---|---|
| 意味 | 過去に起こった実例・前例 | 問題となっている事柄 |
| 時間的な特徴 | 主に過去 | 現在～過去（進行中・未解決） |
| ニュアンス | 中立〜前向き（成功・参考） | 少し重い（問題・事件性） |
| 使用分野 | ビジネス・研究・教育など | 行政・警察・報道など |
| 例 | 成功事例、教育事例 | 不正事案、通報事案 |
「事例」と「事案」は、どちらも「ある出来事」や「具体的なケース」を指す言葉ですが、使われる文脈や目的が異なります。
「事例」は、過去に起きた出来事を“参考”や“分析対象”として扱うときに使われる言葉です。
たとえば、「成功事例」「教育現場での事例研究」などのように、問題解決や学習の材料となるケースを意味します。したがって、「事例」は、中立的または肯定的な文脈で使われることが多く、「再現」や「応用」、「分析」を目的とする点が特徴です。
一方、「事案」は行政・報道・警察などの分野で用いられ、特定の“出来事”を客観的に指し示す言葉です。
「事件」ほど重大ではありませんが、何らかの対応が必要な場合に使われ、「不正事案」「ハラスメント事案」など、問題を含むケースを指す傾向があります。感情や評価を交えず、慎重な言い回しを求められる公的文書などで多用されます。
つまり、「事例」は学びや参考のための“モデルケース”、「事案」は対応や処理のための“発生案件”という違いがあります。
「事例」と「事案」の使い分け
それでは、実際に両者をどのように使い分ければよいのでしょうか？ 以下に、場面ごとの使い分け方を簡単に示します。
① 問題や不正が発生している場合 ⇒ 「事案」
対応・調査が必要な状況では「事案」を使います。 たとえば、「情報漏えいの事案」「不正事案」「トラブル事案」などです。 ニュース報道や行政文書でも多く用いられ、やや硬い印象があります。
② 過去の出来事を分析・共有する場合 ⇒ 「事例」
過去の成功や失敗を振り返り、今後に活かすときは「事例」を使います。 たとえば、「成功事例の共有」「事例検討会」などがこれに当たります。 「事例」は問題の有無に関係なく、客観的に扱う表現です。
③ 公的・行政的な報告の場合 ⇒ 「事案」
警察や行政などの公式文書では、問題発生時に「事案」という表現が多く使われます。「事例」だと客観的・学習的な印象になるため、責任や対処を示す文書では「事案」がふさわしいです。
※「事案」は問題解決のニュアンスが強いため、軽い成功例や参考例に使うのは不自然です。 逆に「事例」は客観的な分析を表すため、感情的・緊急性の高い内容には適しません。
まとめ
本記事では、「事例」と「事案」の違いを解説しました。 「事例」は、過去の実例を振り返って学びや参考にするための言葉、「事案」は、問題や課題が生じて対応が必要な出来事を指す言葉です。
両者を正しく使い分けることで、文章の印象や正確さが大きく変わります。特にビジネスシーンでは、文脈に合わせて適切な言葉を選ぶことが重要です。
