
ビジネスや行政、法律関係の話題でよく耳にする言葉に「移管」と「譲渡」があります。どちらも何かを他者に引き渡す行為を示すため、混同されやすい言葉です。
しかし、この二語は使われる場面が明確に異なります。本記事では、それぞれの意味の違いや使い分けを詳しく解説していきます。
「移管」の意味
「移管(いかん)」とは、管理・権限・業務などを、他の機関や担当者へ移すことを意味します。特に、行政機関や企業などの組織内・組織間で「管轄」や「責任範囲」を移す場面で使われます。
物理的なモノを移すというより、目に見えない管理・体制・役割の引き渡しを指す言葉です。たとえば、地方自治体の事務処理を都道府県に引き継ぐ、あるいは企業の中で業務を別部署に引き渡すといった場面が該当します。
このように「移管」は、組織構造や担当体制に関わる場面で使われるのが特徴です。法律的・経済的な「所有権の移動」を伴わないことも多く、制度的・機能的な変化を強調する言葉だといえるでしょう。
「移管」の例文
- 総務部は、社内の勤怠管理システムの運用を人事部に移管した。
- 国は、一部の公共サービスを地方自治体に移管することを決定した。
- 顧客対応業務は、営業部からカスタマーサポート部へ移管された。
- 開発プロジェクトの進行管理を、東京本社から大阪支社に移管する。
- サーバーの保守管理は、外部ベンダーに業務を移管する形で対応する。
「譲渡」の意味
「譲渡(じょうと)」とは、権利や財産、地位などの所有権を他者に譲り渡すことを意味します。
主に不動産、株式、知的財産など、価値のある資産に対して使われる用語です。たとえば、会社の保有する商標権を他社に引き渡す、株式を譲り渡す、不動産を売却する場合などが挙げられます。
譲渡には、金銭のやり取りを伴う有償の取引(売買など)と、対価を伴わない無償の移転(贈与など)の両方が含まれます。いずれの場合も「所有権が移る」という点が最大の特徴です。
また、所有権の移転は契約や法律上の手続きが必要となる場合が多いため、譲渡契約書の作成や登記など、法的効力を伴う重要な概念として扱われます。
「譲渡」の例文
- 会社は、保有していた特許権を他社に譲渡した。
- 株式を第三者に譲渡するには、取締役会の承認が必要だ。
- 所有していた不動産を譲渡し、新たな資産運用を始めた。
- 自分の著作権を出版社に譲渡して出版契約を結んだ。
- 経営権を息子に譲渡して、社長職を退いた。
「移管」と「譲渡」の違い
「移管」と「譲渡」の違いは、次のように整理することができます。
項目 | 移管(いかん) | 譲渡(じょうと) |
---|---|---|
意味 | 管理や権限を移すこと | 所有権を譲り渡すこと |
対象 | 業務、事務、機能、管理 | 資産、権利、契約、株式など |
用途 | 行政や企業内の組織変更 | 商取引、契約、法律上の権利移動 |
有償・無償 | 無償が多い | 有償・無償どちらもある |
ニュアンス | 制度的・組織的な変更を強調 | 経済的・法律的な所有関係の変化を強調 |
「移管」と「譲渡」は、いずれも“引き渡す”ことを示す言葉ですが、その本質はまったく異なります。
「移管」は、業務や機能、権限などを一つの組織から別の組織に引き渡すことを意味します。特に行政機関や企業内の部門間など、組織間での引き継ぎを指すことが多く、所有権よりも「管轄」や「管理」の主体が変わるという点に重点があります。
たとえば、「市町村から都道府県への事務の移管」などが該当し、営利目的ではなく、制度や体制の変更に伴うものとして使われます。
一方の「譲渡」は、物品や権利などの「所有権」を他者に渡すことを意味し、商取引や契約行為として行われることが一般的です。
有償でも無償でも使えますが、特に企業の株式や資産、知的財産権などの売買で使われることが多く、経済的なやりとりを伴うことが多い言葉です。
つまり、「移管」は制度的・管理的な変更であり、「譲渡」は経済的・法律的な所有権の移動であるといえます。
「事業移管」と「事業譲渡」の違い
ビジネスの現場では、「事業移管」と「事業譲渡」という言葉も登場します。この2つは似ていますが、厳密には意味が異なります。
「事業移管」とは、グループ企業内や社内において事業の担当部門を変更する行為です。
たとえば、本社が担っていた製造部門を子会社に移すような場合が該当します。これは、必ずしも所有権が移るわけではなく、業務の実施主体が変更される内部的な再編が中心です。
一方、「事業譲渡」は、企業が自社の事業を外部の別企業に売却することを意味します。
譲渡対象には、資産、契約、顧客、従業員などが含まれ、法律上の契約手続きが必要です。これは完全に所有権が移動する行為であり、買収の一形態ともいえます。
つまり、「事業移管」は社内の内部的再編が主目的、「事業譲渡」は法的な売買契約による所有権の移転が主目的である点で大きく異なります。
「移管」と「譲渡」の使い分け
それでは、実際に両者をどのように使い分ければよいのでしょうか?以下に、場面ごとの使い分け方を簡単に示します。
①組織や部署の業務を変更する場合 ⇒「移管」
部署や組織内で業務の責任や役割を引き継ぐときは「移管」を使います。所有権の移動ではなく、管理体制の変更が目的であるためです。
②財産や権利を他人に渡す場合 ⇒「譲渡」
土地、株式、特許などを他人に渡すときは「譲渡」を使います。経済的・法律的な所有者の交代を伴うためです。
③企業の事業を他社に売却する場合 ⇒「譲渡」
第三者の企業に対して事業を売却する場合は「事業譲渡」です。対価のやりとりがある契約行為であり、法的手続きも必要になります。
まとめ
この記事では、「移管」と「譲渡」の違いを解説しました。「移管」は管理や業務の引き継ぎに用いられ、「譲渡」は財産や権利の所有権を他人に渡す際に使います。
とくに、事業の再編や取引の場面では、どちらを使うかで意味が大きく変わります。違いをしっかりと理解し、正しく両者を使うようにしましょう。