
公文書では、相手に対する敬意を適切に示しながら、内容を分かりやすく伝えることが求められます。しかし、敬語なら何でも使えばよいというわけではありません。日常ではあまり使わない格式張った表現や、敬語を重ねすぎた表現には注意が必要です。
また、「参る」と「まいる」のように、意味だけでなく、文中での役割によって漢字と平仮名を使い分ける言葉もあります。この記事では、公文書における敬語の基本から、具体的な表現の使い分けまで分かりやすく解説します。
公文書の敬語とは
公文書では、相手に対して失礼にならないよう、適切な敬語を使用します。ただし、一般的なビジネス文書や日常会話と同じ感覚で、敬語を多く使えばよいというものではありません。公文書では、必要以上に敬語を重ねず、簡潔で分かりやすい表現にすることが基本です。
敬語には、大きく分けて「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」の3種類があります。丁寧語は「です・ます」のように表現を丁寧にするものです。尊敬語は相手や第三者の行為・状態を高めて表現するもので、「お~になる」「~れる・~られる」などがあります。謙譲語は、自分や自分側の行為をへりくだって表現することで、相手への敬意を示すものです。「申す」「いたす」「うかがう」などが代表例です。
公文書では、特に内部文書などの場合、尊敬語や謙譲語を必要以上に使用せず、丁寧語を中心として簡潔に記述することがあります。ただし、通知、案内、依頼、書簡など、文書の性格や相手によって適切な敬語表現は変わります。
そのため、「公文書では尊敬語や謙譲語を使ってはいけない」と考えるのは適切ではありません。重要なのは、文書の目的や相手に応じて、必要な敬意を保ちながら過度な表現を避けることです。
また、「でございます」「御高覧」「貴殿」などの非常に格式張った表現は、敬意を表す言葉ではあるものの、一般的な公用文では堅苦しく感じられる場合があります。相手に敬意を示すことと、古めかしく難しい言葉を使うことは別なので注意しましょう。
敬語の使い方
公文書で敬語を使用するときは、まず「誰の行為なのか」を意識することが大切です。相手の行為には尊敬語、自分側の行為には謙譲語を使うという基本を押さえておくと、誤った敬語を避けやすくなります。
例えば、相手が来る場合は「お越しになる」「いらっしゃる」などの尊敬表現を使います。一方、自分が相手のところへ行く場合は「うかがう」などの謙譲表現を使います。ただし、公文書では、こうした敬語であっても文書全体の調子に合わせて、できるだけ簡潔な表現にすることが重要です。
また、「お」「ご(御)」を付ければ必ず丁寧になるわけではありません。相手の物事を表す場合や、相手に関係する自分側の行為などには「お」「御」を付けることがありますが、必要以上に付けると過剰な表現になります。
さらに注意したいのが、二重敬語です。「お申し込みになられますと」のように、「お~になる」と「~られる」を重ねる表現は避け、「お申し込みになりますと」とするほうが適切です。
「れる・られる」についても、使い方を誤らないようにしましょう。「書かれる」「言われる」「来られる」のように尊敬の意味を表すことができますが、「御出張される」「お食事される」のように「お・御」と「れる・られる」を重ねた表現は避けます。
また、「申す」「参る」のようにもともと謙譲の意味を持つ言葉に「れる・られる」を付けても、適切な尊敬語にはなりません。敬語は単純に言葉を丁寧にするのではなく、誰の行為をどのように表現するのかを考えて使うことが重要です。
敬語の具体例
公文書では、敬語を過剰にしたり、相手の行為に謙譲語を使ったりしないよう注意します。以下に、代表的な例を挙げます。
- お申し込みになられますと → お申し込みになりますと
「お~になる」と「~られる」を重ねないようにします。 - 3時までにうかがってください → 3時までにお越しください
「うかがう」は謙譲語なので、相手の行為には使用しません。 - どなたでもご利用できます → どなたでもご利用になれます
相手の行為を表す場合は、適切な尊敬表現にします。 - 市長が参られます → 市長がいらっしゃいます
「参る」は謙譲語なので、相手の行為を表す尊敬語として「参られる」とするのは適切ではありません。 - 御出張される場合 → 御出張になる場合
「御」と「される」を重ねた表現を避けます。
このほか、「お」「御」の付け過ぎにも注意が必要です。「お名刺」「御疑義」「御芳名」「お紅茶」など、過剰に敬語化した表現は、一般的な公用文では避けるほうが分かりやすい場合があります。
また、「貴殿」「貴下」「御高覧」「御賢察」「芳名」「笑納」「下付」「下問」「謹呈」「寸志」「薄謝」「参上」なども、敬意を表す意味を持つ一方で、一般的な公用文では堅苦しすぎる表現とされています。これらは文書の種類によって使われることもありますが、通常の行政文書などでは、より平易な言葉に置き換えるほうが伝わりやすいでしょう。
それぞれの意味は、次のとおりです。
- 貴殿(きでん):「あなた」を意味する敬称。相手への敬意を表す言葉ですが、現代の一般的な公用文では硬い印象があるため、相手の氏名や「○○様」など、より具体的で分かりやすい表現を選ぶほうが自然です。
- 貴下(きか):「あなた」を敬っていう言葉。「貴殿」と同様に格式張った印象があるため、一般的な文書では使用を控え、相手の氏名などを用いるほうが分かりやすいでしょう。
- 御高覧(ごこうらん):「見ていただくこと」を相手を敬って表現した言葉。「ご覧ください」など、より平易な表現に置き換えられることのほうが多いです。
- 御賢察(ごけんさつ):相手が事情や心情などを察することを敬っていう言葉。「お察しください」などの表現のほうが、意味が伝わりやすいです。
- 芳名(ほうめい):相手の名前を敬っていう言葉。案内状や礼状などで使われることがありますが、一般的な公用文では「氏名」「お名前」などとするほうが分かりやすいです。
- 笑納(しょうのう):贈り物などを「つまらないものですが、どうぞお受け取りください」という意味でへりくだっていう言葉。非常に改まった表現なので、一般的な公用文では使う場面が限られます。
- 下付(かふ):官庁などが金品や書類などを下げ渡すことを意味する言葉。敬語的な意味を持つというより、行政・法令などで使われてきた硬い表現なので、文脈に応じて「交付」「支給」など、具体的な内容に合った言葉を使います。
- 下問(かもん):目上の人が目下の人に質問することを意味する言葉。一般的な文章では、「質問」「問い合わせ」などとしたほうが分かりやすいです。
- 謹呈(きんてい):「つつしんで差し上げる」という意味の言葉。贈呈する際などに使われますが、格式張った印象があるため、一般的な公用文では「贈呈」「お贈りします」など、具体的な表現のほうが伝わりやすいです。
- 寸志(すんし):「わずかな謝礼」や「少しばかりの贈り物」という意味で、自分から渡す金品などをへりくだっていう言葉。意味が分かりにくい場合は、「謝礼」「謝礼金」などとするほうが明確です。
- 薄謝(はくしゃ):「わずかな謝礼」という意味の言葉。相手に渡す謝礼を控えめに表現する場合に使われますが、一般的な公用文では「謝礼」「謝礼金」など、具体的な表現のほうが分かりやすいです。
- 参上(さんじょう):「目上の人のところへ行くこと」をへりくだっていう言葉。「伺います」「訪問します」など、文脈に応じて平易な表現に置き換えられます。
このように、これらの言葉はすべて「間違った敬語」というわけではありません。文書の種類や場面によっては現在でも使われる表現があります。ただし、一般的な公用文では、相手に敬意を示すことだけでなく、内容を正確かつ分かりやすく伝えることも重要です。そのため、意味が伝わりにくい格式張った言葉を無理に使わず、できるだけ平易な表現を選ぶことが大切です。
「参る・まいる」の違い
「参る」と「まいる」は、どちらも「まいる」と読みますが、公用文では文中での役割によって漢字と平仮名を使い分けます。
ポイントになるのが「補助動詞」です。補助動詞とは、ほかの動詞に付いて、その動作などに補助的な意味を加えるものです。公用文では、補助動詞は原則として平仮名で表記します。
例えば、「明日、参ります」の「参る」は、「行く」という意味を持つ独立した動詞です。そのため、漢字で「参ります」と書きます。
一方、「住民への周知に十分努めてまいります」の「まいる」は、「努める」という動詞に付いて補助的な意味を加えています。そのため、平仮名の「まいります」とします。
この違いは、「敬語だから平仮名にする」というものではありません。独立した動詞として使うか、補助動詞として使うかが判断のポイントです。
同じ考え方は「いたす」にも当てはまります。「致し方ない」の「致す」は独立した動詞なので漢字で書きます。一方、「御案内いたします」の「いたす」は「案内する」という動作を補助するため、平仮名で表記します。
したがって、「参る・まいる」「致す・いたす」は、意味だけでなく、文中での働きを確認して使い分けることが大切です。
まとめ
本記事の内容をまとめると、以下のとおりです。
| 表現・項目 | 基本的な考え方 | 使用例 |
|---|---|---|
| 丁寧語 | 表現を丁寧にする | です・ます |
| 尊敬語 | 相手や第三者の行為を高める | お越しになる |
| 謙譲語 | 自分側をへりくだる | うかがう・申す |
| お・御 | 必要な場合に使用し、付け過ぎない | 御報告します |
| 参る | 独立した動詞 | 明日、参ります |
| まいる | 補助動詞 | 努めてまいります |
| 致す | 独立した動詞 | 致し方ない |
| いたす | 補助動詞 | 御案内いたします |
| 貴殿 | 堅苦しい敬称 | 一般的な公用文では慎重に使用 |
| 謹呈 | 格式張った表現 | 文書の性格に応じて使用 |
| 薄謝 | 控えめに謝礼を表す語 | 一般的な公用文では慎重に使用 |
公文書の敬語は、相手への敬意を示すことだけを目的とするのではなく、正確で分かりやすく情報を伝えることが重要です。そのため、必要以上に格式張った表現を使ったり、敬語を重ねたりすることは避けます。
「貴殿」「謹呈」「薄謝」などは敬意を表す言葉ですが、一般的な公用文では堅苦しく感じられることがあります。文書の性格によっては使われる場合もあるため、「間違った敬語」と一律に判断するのではなく、一般的な公用文では、より平易な表現を選ぶと考えると分かりやすいでしょう。
また、「参る」と「まいる」は、公用文における漢字と平仮名の使い分けを理解するうえで重要な例です。「明日、参ります」のように独立した動詞として使う場合は漢字、「努めてまいります」のように補助動詞として使う場合は平仮名にします。