
公用文を書くとき、「この漢字の使い方で合っているのだろうか」と迷うことがあります。特に、読み方や意味が似ている漢字語は、どちらを使ってもよいように感じられるものです。
しかし、公用文では、読み手にとって分かりやすく、表記に揺れが生じないよう、一定の考え方に基づいて漢字を使います。「起因」と「基因」、「十分」と「充分」のような言葉も、その一例です。
本記事では、公用文における漢字の使い分けについて、具体例を挙げながら分かりやすく解説します。
公用文の漢字の基本
公用文では、漢字を自由に選んで使うのではなく、一般に分かりやすく、読み手に誤解を与えにくい表記を選ぶことが重要です。
文化庁が公開している「公用文における漢字使用等について」では、公用文の漢字の使用の基準が示されています。また、令和4年には「公用文作成の考え方」が文化審議会によってまとめられ、現在の社会状況や読み手の多様化を踏まえた公用文の書き方が示されています。
こうした公用文の考え方では、単に「漢字を多く使えばよい」というわけではありません。読み手にとって理解しやすい文章にすることが大切です。
似た意味を持つ漢字語が複数ある場合には、一般的な表記を選んだり、紛らわしい場合には別の分かりやすい言葉に言い換えたりすることがあります。
例えば、「起因」と「基因」のように漢字が異なる言葉、「十分」と「充分」のように意味が近い言葉については、表記を整理しておくと公用文を作成するときに迷いにくくなります。
なお、「一般的な語を使う」「紛らわしい語を言い換える」「似た意味の語を一方に統一する」という整理は、それぞれ同じルールではありません。この違いを理解することが、公用文の漢字を正しく扱うポイントです。
一般的な漢字を使う
漢字の中には、意味や読み方が似ていても、一方の語の方が一般的に使われているものがあります。
このような場合、公用文では、一般的に使われている語を選び、一般的でない表記はできるだけ避けるという考え方があります。
例えば、「看守」と「監守」では、「看守」の方が一般的な語です。同様に、「技官」と「技監」、「不正」と「不整」についても、一般的な表記を選ぶことが基本となります。
ここで注意したいのは、一般的でない漢字を使ったからといって、必ずしも日本語として成立しないという意味ではないことです。公用文では、より多くの人に意味が伝わりやすい表現を選ぶことが重視されます。
公用文は、特定の専門家だけが読む文章ではなく、行政機関から住民や事業者など幅広い読み手に向けて作成される場合があります。そのため、読み手が迷う可能性のある表記はできるだけ避けることが大切です。
例えば、次のような整理ができます。
- ○ 看守が施設内を巡回する。
- ○ 技官が設備の状況を確認した。
- ○ 契約に関する不正が発覚した。
- ○ 担当者が施設の管理を行う。
- ○ 事業の実施状況を調整する。
このように、公用文では「漢字として書けるか」だけでなく、一般的にどの表記が使われているかという視点から判断することが重要です。
紛らわしい漢字は言い換える
公用文の漢字の使い分けで特に注意したいのが、双方とも実際によく使われていて、意味も近いため混同しやすい語です。
このような場合には、比較的一般的でない語を無理に使い続けるのではなく、別の分かりやすい言葉に言い換える方法があります。
代表的なのが「起因」と「基因」です。
「起因」は「ある事柄が原因となること」を表す言葉です。一方、「基因」も原因や起こるもとに関係する意味を持つため、文章によっては両者が紛らわしくなります。
そのため、紛らわしさを避ける必要がある場合は、「基因」を使う代わりに「基づく」などの表現に置き換える方法があります。
同じような考え方は、「管理」と「監理」、「調整」と「調製」などにも見られます。
- ○ 問題は設備の故障に起因する。
- ○ この判断は法律の規定に基づく。
- ○ 担当部署が施設を管理する。
- ○ 必要な資料を作成する。
- ○ 関係機関と内容を調整する。
例えば、「○○に基因する」と書くよりも、「○○に基づく」「○○が原因となる」などとした方が、読み手にとって意味を理解しやすい場合があります。
ほかにも、「厚生・更正・更生」「詐欺・詐偽」「法令・法例」など、漢字が似ているため注意が必要な組み合わせがあります。
重要なのは、似た漢字語を細かく使い分けること自体を目的にしないことです。文章の意味が明確になるのであれば、より一般的で分かりやすい言葉に置き換える方が適しています。
似た表記は一方に統一
似た意味を持つ言葉については、複数の表記を使い分けるのではなく、公用文の中で一つの表記に統一するという考え方もあります。
代表的なものが「十分」と「充分」です。
「十分」と「充分」は、どちらも「足りている」「満ちている」という意味で使われます。日常の文章では「充分」という表記を見かけることもありますが、公用文では「十分」に統一するという整理がされています。
同様に、「改定」と「改訂」、「規制」と「規正」、「規律」と「紀律」などについても、表記を統一する考え方があります。
- ○ 内容を改訂する。
- ○ 法令による規制を受ける。
- ○ 社会生活上の規律を守る。
- ○ 必要な書類を作成する。
- ○ 今後の状況を確認する。
このほかにも、次のような表記があります。
| 複数の表記 | 統一する表記 |
|---|---|
| 改定・改訂 | 改訂 |
| 規制・規正 | 規制 |
| 規律・紀律 | 規律 |
| 経理・計理 | 経理 |
| 作成・作製 | 作成 |
| 状況・情況 | 状況 |
| 十分・充分 | 十分 |
| 統括・統轄 | 統括 |
| 総括・総轄 | 総括 |
例えば、一つの文書の中で「十分」と「充分」を混在させると、表記に揺れが生じます。公用文では、同じ意味で使っている語について表記を統一することが文章の読みやすさにつながります。
ただし、こうした整理は「もう一方の漢字が日本語として絶対に誤り」という意味ではありません。一般の文章と公用文では、求められる表記の考え方が異なる場合があるため、公用文を書く場合は公用文の基準に合わせることが重要です。
公用文の使い分け一覧
ここまで紹介した内容を整理すると、公用文における漢字の使い分けには、大きく三つの考え方があります。
一つ目は、一般的に使われている語を選ぶことです。「看守」「技官」「不正」など、一般的な表記を優先します。
二つ目は、紛らわしい語を別の分かりやすい表現に言い換えることです。「起因・基因」のように意味が近く、混同のおそれがある場合は、「基づく」などの表現を使うことで文章を分かりやすくできます。
三つ目は、意味の似た表記を一つに統一することです。「十分・充分」であれば、「十分」に統一します。
なお、現在の公用文については、平成22年の内閣訓令だけでなく、令和4年に示された「公用文作成の考え方」も確認することが大切です。文化庁は現在もこれらの資料を「公用文に関する諸通知」として公開しています。(文化庁)
また、「公用文作成の考え方」は、国の府省庁における公用文の書き表し方に関する既存の基準や慣用、実態を踏まえ、現在の公用文作成の参考となる考え方を示したものです。(文化庁)
| 区分 | 基本的な考え方 | 代表例 |
|---|---|---|
| 一般的な語を使う | 一般的に使われている表記を選ぶ | 看守・監守、技官・技監 |
| 紛らわしい語を言い換える | 比較的一般的でない語を別の表現にする | 起因・基因 → 「基づく」など |
| 表記を統一する | 意味が似た語は一方の表記にそろえる | 十分・充分 → 「十分」 |
| その他の統一例 | 公用文で使う表記をそろえる | 作成・作製 → 「作成」 |
| 表記の目的 | 読み手に分かりやすく伝える | 一般的で明確な表現を選ぶ |
公用文の漢字で迷ったときは、「どちらの漢字が正しいか」だけを考えるのではなく、一般的な表記か、紛らわしくないか、文書内で表記が統一されているかという三つの視点から確認すると判断しやすくなります。
特に「起因・基因」「十分・充分」のような言葉は、日常生活では両方の表記を目にすることがあります。そのため、公用文を書く際には、一般の文章での使われ方と公用文で求められる表記を区別して考えることが大切です。
公用文は、漢字を難しく書くことが目的ではありません。読み手に正確かつ分かりやすく情報を伝えることが基本です。そのため、迷いやすい漢字語については、より一般的な表記を選び、必要に応じて分かりやすい言葉へ言い換え、似た表記は統一することが重要になります。(文化庁)