
法令や条例を読んでいると、「前項」「次条」「当該」「準用」など、一般的な文章ではあまり使わない言葉が出てきます。これらは単なる難しい言い回しではなく、条文の内容や適用範囲を正確に示すための法令特有の用語です。
一見すると似た言葉でも、基準となる日を含むかどうか、義務なのか権限なのかなど、意味が異なる場合があります。この記事では、法令・条例・規則などを読む際に知っておきたい23の用語について、意味と使い方を分かりやすく解説していきます。
法令用語の基本
まずは、法令の内容そのものや、法令を変更するときに使われる代表的な用語から確認しましょう。
「規程」と「規定」
「規程」は、一定の事項について定めた規則や定めのまとまり全体を指す場合に使われます。一方、「規定」は、法令などの中にある個々の条項や定めを指します。
たとえば、「職務権限規程」は一定の事項をまとめて定めた規程です。それに対して「条例第○条の規定」は、条例の中にある特定の条文を指しています。
「施行」と「適用」
「施行」は、法令を実際に効力のある状態にして、運用を開始することです。「令和○年4月1日から施行する」のように使います。
「適用」は、施行されている法令の規定を、具体的な人や事柄、ケースに当てはめることです。
つまり、簡単にいえば、施行は法令が効力を持って動き始めること、適用はその法令を具体的な対象に当てはめることです。
「準拠」と「準用」
「準拠」は、ある規定や基準などをよりどころとして、それに従うことを意味します。
一方、「準用」は、本来別の事柄を対象としている規定を、必要な修正を加えながら別の事柄にも当てはめることです。
「準拠」は「基準に従う」、「準用」は「別の場面にも当てはめる」と考えると分かりやすいでしょう。
「改正する」と「改める」
「改正する」は、法令の全体または一部を変更するときに使います。特に、改正する法令を示す表現として用いられます。
一方、「改める」は、法令の中にある特定の条、項、号などを変更する場合に使われます。
「○○条例の一部を次のように改正する」「第○条を次のように改める」のように使い分けます。
「削除」と「削る」
「削除」は、条や号などをなくす場合でも、条名や号名を残して「削除」と表示する場合に使います。
一方、「削る」は、法令の一部を取り除き、その部分を跡形なくなくす場合に使われます。
数量・期間の法令用語
法令では、人数、金額、年齢、期間などを正確に示す必要があります。そのため、日常会話ではあまり意識しない「含む・含まない」という違いが重要になります。
「以上・超える・以下・未満」
「以上」は基準となる数量を含んで、それより多い数量を表します。「10以上」であれば10を含みます。
「超える」は基準となる数量を含まず、それより多い数量を表します。「10を超える」であれば10は含みません。
「以下」は基準となる数量を含んで、それより少ない数量を表します。「10以下」なら10を含みます。
「未満」は基準となる数量を含まず、それより少ない数量です。「10未満」なら10は含みません。
したがって、「以上・以下は基準値を含み、「超える・未満」は基準値を含まない」と覚えると理解しやすくなります。
「以前・以後・前・後」
時間を表す場合も、基準となる時点を含むかどうかがポイントです。
「以前」と「以後」は、基本的に基準点を含む表現です。「4月1日以後」であれば、4月1日を含む範囲を指します。
一方、「前」と「後」は、基本的に基準点を含まない表現です。
「から起算して」と「から」
期間の起点を示す場合、「から起算して」は起点の日を算入して数える表現として使われます。
一方、「から」は、期間の起点を示すだけで、通常は起点の日を算入しない場合に使われます。
ただし、実際の法令では民法などの期間計算に関する規定との関係もあるため、具体的な条文を読む際には、その法令の規定を確認することが重要です。
例文
- 申請者は、18歳以上でなければならない。
- 10万円を超える支出については、別途承認を受けるものとする。
- 申請期限は、令和8年4月1日以後に到来する日とする。
- 違反行為を知った日から起算して30日以内に申立てをすることができる。
- 20歳未満の者については、別に定める手続によるものとする。
条文を参照する法令用語
法令では、同じ内容を何度も繰り返して書くのではなく、「前項」「次条」「同号」などによって別の条文を参照します。これらの言葉を理解すると、長い条文でも内容を追いやすくなります。
「前項の」と「前項の規定による」
「前項の」は、前の項にある名詞的な事項を受ける場合に使います。
たとえば、「前項の届出」であれば、前項に規定された「届出」を指します。
一方、「前項の規定による」は、前項に定められた規定に基づいて行う行為や手続を指す場合に使います。
「前項の場合において」と「前項に規定する場合において」
「前項の場合において」は、前項で規定された内容や状況を受けて、その場合に必要となる事項を定める表現です。
一方、「前項に規定する場合において」は、前項の中にある「○○の場合」という条件部分を受けるときに使われます。
両者は非常によく似ていますが、どの部分を受けているのかに違いがあります。
「同」
「同」は、「同条」「同項」「同号」などの形で使われ、法文中で直前に示された同じ対象を指します。
途中に別の条、項、号などが入っている場合には、遠く離れた対象を「同」で受けることはできません。
「前条」と「次条」
「前条」は、現在の条の直前にある条を指します。
「次条」は、現在の条の直後にある条を指します。
また、複数の条を指す場合には「前2条」「前3条」「前各条」などの表現があります。「前各条」は、直前にある複数の条をまとめて指す場合に用いられます。
「当該」
「当該」は、一般的には「その」「問題となっている」という意味で使われます。
法令では、すでに述べた対象を明確に指し示すために使われることが多く、「当該市町村」「当該職員」「当該事項」などの形で登場します。
特に「当該」は、単に文章を堅くするための言葉ではなく、条文中のどの対象を指しているのかを明確にする役割があります。
「~に係る」
「~に係る」は、ある事項との関係を示す表現で、「~に関する」「~についての」「~に関係する」などの意味で使われます。
「届出に係る事項」であれば「届出に関する事項」、「審査請求に係る処分」であれば「審査請求に関係する処分」という意味になります。
例文
- 前項の届出を受理したときは、申請者に通知するものとする。
- 前項の規定による申請があった場合は、審査を行う。
- 前項の場合において、必要な事項を別に定める。
- 次条に定めるところにより、手続を行うものとする。
- 当該事業に係る費用は、申請者が負担するものとする。
義務・例外を表す法令用語
法令の条文では、ある行為を義務付けるのか、禁止するのか、権限を認めるのか、それとも例外を設けるのかを明確に示す必要があります。
「しなければならない」
「しなければならない」は、一定の行為をする義務を課す場合に使います。
「申請しなければならない」であれば、申請することが義務となります。
「してはならない」
「してはならない」は、一定の行為をしてはいけないという禁止・不作為義務を表します。
「することができる」
「することができる」は、一定の行為をすることが認められていることを示します。権利、権限、能力などを与える規定で使われます。
ただし、「できる」と書かれているからといって、必ずその行為をしなければならないという意味ではありません。
「するものとする」
「するものとする」は、一般的な原則や方針を示す規定などで使われます。一般には「しなければならない」よりも若干弱いニュアンスの義務付けを示すと説明されますが、法令上の規定である以上、単なる努力目標とは限りません。
「ただし」と「この場合において」
「ただし」は、前の規定に対する例外や制限を示す場合に使います。
一方、「この場合において」は、前の規定の内容を受けて、その場合に必要な具体的事項を定めるときに使います。
「この限りでない」
「この限りでない」は、前に示した規定について、特定の場合には適用しないことを示す表現です。
「ただし、○○の場合は、この限りでない」のように、ただし書の末尾などで使われます。
「~することを妨げない」
「~することを妨げない」は、ある規定があっても、別の行為をすることまで禁止するものではないことを示します。
「この限りでない」が前の規定の適用を除外するのに対し、「妨げない」は別の行為や規定の適用を認めるという点がポイントです。
「を除くほか」と「のほか」
「を除くほか」は、ある事項を除外したうえで、さらに別の事項を示す表現です。
「のほか」は、前に示したものに加える意味で使われるほか、文脈によっては対象となる事項を含める意味で使われます。
したがって、「のほか」は文脈を確認して意味を判断する必要があります。
例文
- 申請者は、必要な書類を提出しなければならない。
- 許可を受けた者は、その権利を第三者に譲渡してはならない。
- 市長は、必要があると認めるときは、資料の提出を求めることができる。
- 前項の手続は、所定の申請書を提出して行うものとする。
- 原則として本人が申請するものとする。ただし、代理人による申請を妨げない。
法律上の判断・経過措置
最後は、「推定する」「みなす」のように法律上の扱いを決める用語と、改正前の制度を扱う「従前の例による」などを確認します。
「推定する」と「みなす」
「推定する」は、ある事実について、法令上一応そのように判断して扱うことを意味します。反対の事実が証明されれば、異なる扱いになる可能性があります。
一方、「みなす」は、法律上、ある事物を別の事物と同一のものとして扱うことを意味します。
簡単に整理すると、「推定する」は一応そう扱う、「みなす」は法律上そう扱うという違いです。
「例とする」と「例による」
「例とする」は、通常は定められた方法を基準とするものの、合理的な理由がある場合には必ずしもそのとおりにしなくてもよいという趣旨で使われます。
「例による」は、別の法令などで定められた制度や手続を、別の事項について包括的に当てはめる場合に使われます。
「なお従前の例による」
「なお従前の例による」は、法令が改正された場合などに、経過措置として改正前の制度を基準にして扱うことを示します。
旧規定そのものが効力を持ち続けるというより、旧制度を基準として適用するための経過措置を定める表現です。
「なお効力を有する」
「なお効力を有する」も、改正前の規定を経過措置として存続させる場合に使われます。
「なお従前の例による」と似ていますが、「なお効力を有する」場合は、指定された旧規定そのものが引き続き効力を持つという点に特徴があります。
また、「なお従前の例による」は旧制度を包括的に適用するのに対し、「なお効力を有する」は、基本的に効力を存続させるとされた旧規定が対象になります。
法令用語を読むときのポイント
法令用語は、単語だけを見て意味を判断すると誤解することがあります。
たとえば「できる」は日常語では単なる可能を表しますが、法令では権限や権利を付与する意味で使われることがあります。
また、「みなす」「推定する」「この限りでない」などは、法律上の効果に関係するため、一般的な日本語の感覚だけで判断しないことが重要です。
例文
- 婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
- 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
- 会議は、毎年4月中に開催するのを例とする。
- この規程に定めのない事項については、○○規則の例による。
- 改正前の制度については、なお従前の例による。
まとめ
本記事の内容をまとめると、以下のようになります。
| 用語 | 意味・使い方のポイント |
|---|---|
| 規程・規定 | 規程は定めのまとまり、規定は個々の定め |
| 施行・適用 | 施行は法令を効力発生させること、適用は具体的な対象に当てはめること |
| 準拠・準用 | 準拠は基準に従うこと、準用は別の事項に当てはめること |
| 改正・改める | 改正するは法令の変更、改めるは個々の条文などの変更 |
| 以上・超える・以下・未満 | 以上・以下は基準値を含み、超える・未満は含まない |
| 以前・以後・前・後 | 以前・以後は基準点を含み、前・後は含まない |
| 者・物・もの | 者は人、物は有体物、ものは抽象的な対象など |
| 当該 | 問題となっている対象や、すでに示した対象を指す |
| 直ちに・遅滞なく・速やかに | いずれも早期の対応を求めるが、即時性や意味合いに違いがある |
| 削除・削る | 削除は条・号などを残して表示する場合、削るは跡形なくなくす場合 |
| 推定する・みなす | 推定は一応そう扱う、みなすは法律上そう扱う |
| ただし・この場合において | ただしは例外・制限、この場合においては前の内容を受ける |
| 例とする・例による | 例とするは基準・通常の扱い、例によるは別の制度などを当てはめる |
| なお従前の例による | 改正前の制度を経過措置として適用する |
| なお効力を有する | 指定された旧規定そのものを引き続き効力あるものとして扱う |
| この限りでない | 前の規定を特定の場合に適用しない |
| ~することを妨げない | 別の行為や規定の適用を認める |
| 前項の・前項の規定による | 前項の事項を受けるか、前項の規定に基づくことを示す |
| 前項の場合において・前項に規定する場合において | 前項の内容を受けるか、前項中の条件を受けるかの違い |
| ~に係る | ~に関する、~についての、~に関係する |
| しなければならない等 | 義務・禁止・権限・原則などを示す |
| を除くほか・のほか | 除外する場合と、追加・包含する場合の違い |
| 同・前条・次条 | 条・項・号など、条文中の位置や対象を示す |
| から起算して・から | 期間の起点や、起点の日を算入するかどうかを示す |
法令用語は、一見すると似た言葉でも、対象・期間・義務・例外・法律上の効果などによって使い分けられています。特に「以上」と「超える」、「推定する」と「みなす」、「施行」と「適用」などは、意味を取り違えると条文の理解を誤る可能性があります。
また、「前項」「次条」「当該」「前各号」などは、条文のどこを指しているのかを正確に読み取るために欠かせません。法令や条例を読む機会がある場合は、単語を一つずつ覚えるだけでなく、その言葉が条文の中でどのような役割を果たしているのかを意識すると理解しやすくなります。